妊娠中の妊婦健診で、「血糖値が高めですね」「妊娠糖尿病の可能性があります」と指摘されて、驚きや不安を感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。「甘いものを食べすぎたせいかな…」と、自分を責めてしまったり、「糖尿病って聞くと怖い…」と、心配になったりする気持ち、よく分かります。
「妊娠糖尿病」は、決して珍しい病気ではなく、妊娠が原因で起こる、ママの体の変化の一つです。そして、大切なのは必要以上に恐れすぎず、病気について正しく知って適切に管理することです。
この記事では、妊娠糖尿病がなぜ妊娠中に起こるのか、その原因や、ママと赤ちゃん両者にどんな影響があるのか、そして診断されたら、今日からどのように食事を管理し、安全に妊娠期間を過ごすかについて、あなたの不安に優しく寄り添いながら分かりやすく、より具体的に解説します。
妊娠糖尿病について正しく理解し、食事管理を味方につけて、ママも赤ちゃんも健全に過ごすためのガイドとして、ぜひ参考にしてくださいね。
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妊娠糖尿病ってどんな病気?「妊娠中だけ」って本当?
「妊娠糖尿病(GDM: Gestational Diabetes Mellitus)」とは、妊娠中に初めて発見された、または発症した糖代謝異常、つまり、妊娠がきっかけで血糖値が高くなってしまう病気です。
健康な状態では、食事で摂ったブドウ糖は、インスリンというホルモンの働きで体の細胞に取り込まれ、エネルギーとして使われたり、貯蔵されたりして、血糖値は一定の範囲に保たれます。しかし、妊娠中は、胎盤から分泌されるホルモンが、このインスリンの働きを邪魔してしまうことがあります(インスリン抵抗性といいます)。多くの妊婦さんは、膵臓がインスリンをたくさん分泌して補いますが、それが追いつかない場合に妊娠糖尿病を発症します。
「妊娠中だけ」と言われるように、多くの場合、出産すると胎盤がなくなるため、ホルモンの影響がなくなり、血糖値は正常に戻ります。 ただし、妊娠糖尿病になった方は、将来、糖尿病を発症するリスクが高くなることが分かっています。
ちょっと難しい説明になってきましたね。次はもとわかりやすく通常の糖尿病と妊娠糖尿病の違いを見ていきます。
糖尿病と妊娠糖尿病ってどう違うの?
妊婦健診などで「妊娠糖尿病」と言われて、びっくりした方も多いかもしれません。
でも、「糖尿病」と「妊娠糖尿病」は名前は似ていても、まったく同じ病気ではありません。ここではその違いを、やさしく説明しますね。
◆「糖尿病」は一生付き合う病気
糖尿病とは、体の中で血糖値(血液中のブドウ糖の量)をうまくコントロールできなくなってしまう病気です。
原因はさまざまですが、主に以下のようなタイプがあります。
1型糖尿病:体がインスリン(血糖を下げるホルモン)を作れなくなる
2型糖尿病:インスリンの効きが悪くなる(食生活や生活習慣が関係)
この糖尿病は一度発症すると治ることはなく、長く付き合っていく病気になります。
◆「妊娠糖尿病」は妊婦さん特有のもの
一方で「妊娠糖尿病」は、妊娠中だけに起こる血糖値の上昇です。
妊娠中は、赤ちゃんのために多くのホルモンが分泌されます。その影響で、インスリンの働きが一時的に弱くなってしまうことがあるんです。
その結果、妊娠前には正常だった血糖値が高くなり、「妊娠糖尿病」と診断されることがあります。
でも大丈夫。多くの場合は出産後に自然と血糖値が元に戻ります。
◆でも油断は禁物!将来のリスクも
妊娠糖尿病になった方は、将来的に本格的な糖尿病(2型糖尿病)になるリスクが高まることがわかっています。
また、妊娠中に血糖値が高い状態が続くと、
赤ちゃんが大きくなりすぎる
出産が難しくなる
赤ちゃんの低血糖や呼吸トラブル
などのリスクもあるので、きちんと管理することがとても大切です。
◆糖尿病と妊娠糖尿病の違いを表でチェック
項目 | 糖尿病(1型・2型) | 妊娠糖尿病 |
---|---|---|
発症時期 | いつでも | 妊娠中のみ(主に中期〜後期) |
原因 | 遺伝・生活習慣・自己免疫 | 妊娠によるホルモンの変化 |
症状の持続 | 一生続く | 多くは出産後に回復 |
治療法 | 食事管理・薬・インスリンなど | 食事管理中心・一部インスリン使用も |
注意点 | 合併症(腎・眼・心臓など)に注意 | 赤ちゃんとママの健康に影響が出ることも |
「甘いもの食べすぎ」だけじゃない!妊娠糖尿病の本当の原因
妊娠糖尿病の原因は、「甘いものの食べすぎ」だけではありません。主な原因は、妊娠によって起こる体の変化にあり、それに加えて体質や生活習慣が影響します。
主な原因 | 具体的な内容 | ママが知っておきたいこと |
---|---|---|
妊娠によるホルモンの影響 | ・胎盤から分泌されるホルモン(ヒト胎盤ラクトゲンなど)が、インスリンの働きを邪魔する(インスリン抵抗性を高める)。 | これは妊娠を維持するために必要なホルモンの働きです。全ての妊婦さんに起こりうる変化です。 |
インスリン分泌能力の不足 | ・インスリン抵抗性が高まった状態を補うほど、膵臓がインスリンを十分に分泌できない体質の場合。 | 体質的な要素も大きいです。 |
体質や遺伝的な要因 | ・糖尿病になりやすい体質。 ・家族に糖尿病の人がいる場合、リスクが高い傾向があります。 | |
肥満 | ・妊娠前から肥満(BMIが高い)の場合、インスリン抵抗性がさらに高まりやすいです。 | 適正体重での妊娠が推奨される理由の一つです。 |
過去の妊娠歴 | ・過去に妊娠糖尿病になったことがある、巨大児を出産したことがある場合、リスクが高いです。 | |
生活習慣 | ・極端に偏った食生活や、過度の体重増加。 | 食生活は血糖値に直接影響します。 |
このように、妊娠糖尿病は、妊娠による体の変化に、体質やこれまでの生活習慣が影響して発症します。必ずしも「甘いものの食べすぎ」だけが原因ではありません。
参考ページ
【妊婦さんへ】甘いもの、食べてもいいの?和菓子?洋菓子?果物?賢く楽しむ
ママと赤ちゃんへの影響:なぜ管理が必要なの?
妊娠糖尿病と診断されても、適切に管理すれば、ママと赤ちゃん両者への影響を最小限に抑えられます。しかし、血糖値が高い状態が続くと、赤ちゃんに多くのブドウ糖が送られ、赤ちゃん自身の膵臓が頑張ってインスリンをたくさん出すようになります。これが、様々な影響を引き起こす可能性があります。
赤ちゃんへの影響
- 巨大児: 赤ちゃんが大きくなりすぎてしまい、難産や出産時の怪我、帝王切開のリスクが高まります。
- 出産後の低血糖: お腹の中で高い血糖値に慣れていた赤ちゃんが、出生後、急に血糖供給が途絶えることで、血糖値が急激に下がることがあります。
- 多血症、黄疸、呼吸障害など: 高い血糖値の影響で、赤ちゃんに様々な合併症が起こるリスクが高まります。
- 将来的なリスク: 将来、肥満や糖尿病になるリスクが若干高まる可能性が指摘されています。
ママへの影響
- 妊娠高血圧症候群のリスク上昇: 妊娠糖尿病があると、妊娠高血圧症候群を合併するリスクが高まります。
- 羊水過多のリスク上昇: 赤ちゃんがおしっこをたくさん出すことで、羊水が増えすぎてしまうことがあります。
- 難産や帝王切開のリスク上昇: 巨大児の場合に起こりやすくなります。
- 将来的な糖尿病発症のリスク: 妊娠糖尿病になったママは、出産後も定期的な検査が必要です。
これらの影響は、血糖値が高い状態が続いた場合に起こりうるものです。妊娠糖尿病と診断されても、適切な管理によって、これらのリスクを大きく減らすことができます。 必要以上に恐れず、専門家と一緒に管理に取り組むことが重要です。
診断されたら、今日からどうする?食事管理と生活のポイント
妊娠糖尿病は、多くの場合、妊婦健診で行われる血液検査(75g経口ブドウ糖負荷試験など)で診断されます。診断されたら、血糖値を適切に管理するための取り組みが始まります。管理の基本は、毎日の食事と運動です。
今日から始める食事管理のポイント
管理栄養士さんから、あなたの状態に合わせた詳しい食事指導がありますが、一般的なポイントは以下の通りです。
食事管理のポイント | 具体的な方法と理由 | 避けたいこと |
---|---|---|
バランスの取れた食事 | ・主食(ご飯、パン、麺など)、主菜(肉、魚、卵、大豆製品)、副菜(野菜、きのこ、海藻類)をバランス良く摂る。 ・妊娠中に必要な栄養(タンパク質、ビタミン、ミネラルなど)をしっかり摂る。 | 特定の栄養素だけを極端に増やしたり減らしたりしない。 極端な糖質制限。 |
血糖値が急激に上がりにくい工夫 | ・食事の最初に野菜やきのこ類、海藻類などを食べる(食物繊維が糖の吸収を緩やかにする)。 ・ゆっくり、よく噛んで食べる。 ・一度にたくさん食べず、少量ずつ何回かに分けて食べる(分食)。 ・ジュースや清涼飲料水、菓子パンなど、血糖値が急激に上がりやすいものは控える。 | 早食い、ドカ食い。 糖分が多い飲み物や食品の過剰摂取。 |
食べる時間帯 | ・毎食、できるだけ決まった時間に食べる。 ・特に夕食後から寝るまでの時間が長い場合は、寝る前に軽い捕食を摂る(医師や管理栄養士に相談)。 | 食事時間が不規則になること。 寝る直前の食事。 |
間食の選び方と量 | ・間食をする場合は、血糖値が上がりにくいもの(無糖ヨーグルト、ナッツ少量、チーズなど)を選ぶ。 ・量に注意する。 | 甘いお菓子、菓子パン、ジュースなど。 ダラダラ食い、食べすぎ。 |
食事管理は、一人で悩まず、必ず管理栄養士さんの指導を受けてください。あなたに合った具体的な献立や、外食・コンビニ食の選び方なども相談できます。
生活でのポイント
- 適度な運動: 医師の許可を得て、食後に軽い運動(ウォーキングなど15〜30分程度)を行います。これにより、食後の血糖値の上昇を抑えられます。ただし、無理は禁物です。
- 体重管理: 妊娠中の急激な体重増加は、血糖コントロールを難しくします。医師から指示された適正な体重増加の範囲を守りましょう。
- ストレス管理: ストレスは血糖値に影響を与えることがあります。リラックスできる時間を見つけ、心穏やかに過ごしましょう。
【重要】不安な時、症状がある時は迷わず専門家へ相談を
妊娠糖尿病と診断されて、不安や戸惑いを感じるのは当然です。血糖値管理のために、食事や生活習慣に気を配ることは、慣れるまで大変かもしれません。
「この食事は合ってる?」「血糖値が目標値にならない」「体調がいつもと違う気がする」など、分からないことや不安なことがあれば、どんな小さなことでも遠慮せず、必ず担当の医師や管理栄養士さんに相談してください。 専門家は、あなたの状況を理解し、適切なアドバイスやサポートをしてくれます。
特に、以下のような症状が見られた場合や、血糖値コントロールがうまくいかない場合は、早めに相談しましょう。
- 何度測定しても血糖値が高い、または低すぎる場合
- 体調が悪化してきた、気になる症状がある場合
- 食事管理がうまくいかず、精神的に参ってしまった場合
妊娠糖尿病は、出産後多くの場合改善しますが、将来の糖尿病予防のためにも、出産後も体のケアを続けることが大切です。
まとめ:妊娠糖尿病は「管理」が鍵!専門家と一緒に安全に乗り切ろう
妊娠糖尿病は、妊娠中に血糖値が高くなる病気で、妊娠による体の変化と体質が主な原因です。適切に管理しないとママと赤ちゃん両者に影響が出る可能性がありますが、妊婦健診での早期発見と、専門家(医師、管理栄養士)の指導による食事療法や運動療法などの管理によって、リスクを最小限に抑えることができます。
診断されても、過度に心配しすぎず、専門家を信じて、一緒に血糖コントロールに取り組んでいきましょう。食生活の見直しや、適度な運動など、今日からできることから始めてみてください。
不安なことや分からないことは、どんな小さなことでも遠慮なく相談してください。専門家が、ママと赤ちゃんの安全な妊娠・出産をサポートしてくれます。妊娠糖尿病は「管理」が鍵です。専門家と一緒に安全に乗り切りましょう。心から応援しています!
(参考:
【妊婦さんへ】妊娠中の「体脂肪率」、増えて大丈夫?体や赤ちゃんとの関係
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